メモリアル創立記念日創立記念日行事概要鹿屋体育大学教授田口信教氏




「心もからだも元気」

                        鹿屋体育大学体育学部 教授 田口信教

皆さん、こんにちは。
 これからのみなさんのお役に立てる話ができればよいと思います。皆さんは意外と自分自身の能力や素質を知らない、または見つめたことがない。私も自分にそんな素質があるなんて知らなかったのですが、専門家、先輩たちが知らせてくれたことが役に立ってきました。皆さんも自分自身のことを知っているようで知らない。私を見てこんな人がなぜ金メダルを取ったのかなと思うかもしれません。でも、調べてみるといろんなことがわかります。
 私が現役時代腕立て伏せ250回くらいやってたんですね。ターンする時、壁を押さなきゃいけないんですね。平泳ぎですから、壁を早く押して、ターンを早くしようと。「平泳ぎの世界一が200回ぐらいやるらしいよ」というから私も一生懸命練習したんです。蓋を開けてみて250回位できるようになって私が世界一ターンが速いんですが、私も「やるもんだ」と思っていたんです。すると、わたしの監督が「250くらいでいばるな。ギネスブック見てみろ」と言うんです。 47000回やる人がいるんです。世の中には腕立て伏せするのが好きな人がいるんですよね。
 「握力」なぜ握力というかというと、指先が鋭くないといけないんですね。私は 握力95あったんです。世界一の選手が150あるというので一生懸命練習しました。95までなりました。広大の教授が一言「オランウーンタンは300あるぞ」と。オランウーンタンと競走するつもりはないんですけれどもね。
 人間って鍛えると強くなるんですよ。みなさんもすごい能力持っているんですよ。でも調べないから。調べようと思ったら鹿屋体育大学に来ればよいのです。うちの大学に来れば体育系のことなら調べられます。素質を調べる必要があるんです。間違っていることがあるんです。背泳ぎは内股の人がやったらよいんですが、外股の人がやってるんです。これは、悲劇ですよ。逆もあります。平泳ぎは外股の競技です。それを内股の選手がやっている。「おまえ、間違ってるよ」と言うと、「先生何とかしてください」でも、大学まで来たらもう間に合わないです。「まあ、がんばれよ」で終わるんです。残念です。こういうケースはよくあるんです。たまたま水泳を始めたときに平泳ぎは誰もいないから「おまえやれ」で始めて、努力するからそこそこいきますね。
「水泳にはこういう素質資質があった方がよいですよ」ということがあるんです。平泳ぎの選手は関節の可動域が広い。鈴木大地や、先頃わたしが出してから三十数年ぶりということでしたね、世界新記録を出した北島選手などいます。
 背泳ぎ歴代の選手を見ると、畳に足先を投げ出すと指先が畳につく。ぐにゃっとなるぐらいしなるから、足ひれの如く動くんです。そんな人がサッカーやったら悲劇です。オットセイが陸に上がったら足を骨折します。関節がぐらぐらします。根性があってもだめなんです。向き不向きというのがあります。人生は間違いの無いようにと言うわけではありませんが、できるだけ失敗しない方がいいですね。自分が何を持っていてどんな素質があるか知らなければいけません。
皆さん、視力についても静止視力だけでなく瞬間視と言うものがあります。見える人もいれば、全く見えない人もいます。勘ではありません。瞬間の判断、見える人と見えない人がいる、向き、不向きです。サッカーのゴールキーパーなど優れているのです。これは測定可能です。また野球の選手や剣道の有段者は手と目、手と足と目の連動性に優れているということが測定によってわかっています。私もやってみましたが、だめでした。色々な測定器により、「あなたはこのスポーツに向いていますね。向いていませんね」とわかるんです。そういうのを調べるのが大事なのです。嗅覚もあるのです。香水のアレンジをする人はだいたい10万種類かぎ分ける。普通1000種類かぎ分けたらいい方です。嗅覚に何百倍の差がある。でも、そんなの調べたこと無いでしょう。皆さんの中にいるかもしれない。同じ人間は一人としていないんだから。自分が何を持っているのか、よく知るということが人生の大事な要素ですよ。人の意見も一杯聞いて、自分をよく見てもらわなければいけない。自分ではなかなかわからない。
 私の場合は、たまたま鶴田善行さんと言って2回水泳で金メダルを取った人が「おまえ、すごい素質あるよ」と言ってくださったんです。そんな人に言われたら「絶対素質あるんだ」って思いました。中学生で優勝したときでした。先生が「水泳は字の練習といっしょだよ 。上手な人をまねなさい」と。
 水泳で一番いいお手本は世界新記録を出した人です。そして、そういう人ほど、練習をオープンにしているのです。私はそれを利用してあっという間に記録をあげていきました 。是非皆さん、「わたしはこの世界」と思ったら、その世界の最先端を真似しなければ損ですよ。率直に素直にまねをすればよいのです。そうして、私は高校二年生でメキシコオリンピックに行きました。
 メキシコオリンピックの優勝者よりも速い記録で泳いだんですが泳法違反というのになっちゃいました。私は人と同じようなことをしてたら人より優れた選手にはなれないなんて教えてくれる人がいて、「そうか、ちょっとかわったことをしよう」と。その人はね、特にアイディアの出し方を教えてくれたんですね。知恵を使っていろいろなアイディアを出すんですけど、それも技法があるんですね。120種類くらいあるんですね。有名なものでランダムにやっていく『ブレーンストーミング方式』とかあります。職場で不良品が出ないようにいろいろとものを改良していくときなど、いろいろなアイデアの出し方があるんですけれど、その方法について一式まとめてどさっと教えてくれたんです。これを素早く活用しようということになったんです。私の身長は173センチメートルなんです。私と一緒にいたライバルというのは1メートル80センチメートル以下というのはひとりもいないんですね。オリンピックに出てくる選手で1メートル70センチメートル台というのは、よっぽど遅い国の選手は別にして、ランキングに載ってくる選手の平均身長というのは185センチメートルくらいなんですね。170センチメートル台の下の方の私が頑張るなんて言ったって・・・。握手するとき本当に嫌になりますよね。ぐっと見上げるように、こう首が疲れるくらい。私と一緒に泳いでいたジョーン・ヘンケンとか、ディック・コリラーとかは1メートル90センチメートルあるんですね。デービー・ウィルキーとかは2メートルもあるんです。
 こういう人たちと闘うんですから、まともに泳いでいたんでは闘いにならないと思うんですね。それでいろんなアイディアを出すんですね。アイディアを出すのも簡単なんですね。いろんな技法をうまく活用するということなんです。皆さんに是非知っていただきたいんですけれども、こういうものって必ずそこらじゅうにあるんですよね。でも、意外とそういうものに興味を示さないんですね。または、見ようとしない。自分の素質に目を向けないのと同じですよ。これは損ですよ。皆さんが目的地に行くのにね、飛行機で行く方が楽でしょ。ヒッチハイクして行く方がそりゃ安いかもしれないけれど時間かかりますよね。汽車よりもね、もっと速いものあるかもしれないけれども、いや便利な車もあるということ、いろんな乗り物があるということを知っていて欲しいんです。そういうものを無視してね、「いや、おれは勝手に行くんだ」と言って、便利なものを無視して勝手に行っていたら、ヒッチハイクや、歩いていくしかない。こういう便利な時代なのに何故速い乗り物を利用しないのか。そうなんです、そういうほんのちょっとしたことなんですけど、その道の専門家という人がいるんですね。また、その道の最先端をホイッと教えてくれる人がいるんです。大いに活用された方がいいです。スポーツをやっていて、強くなっていって「こいつは世界の頂点に行くだろうな」と思ったから、そういう人が自然に寄ってきたということもあるんです。不思議なもので山は頂上に登っていくと遠くがよく見える。九合目まで行くのと頂上に行くのとの違いですよ。頂上に行くと360度山の反対側まで見えるんですよ。人生変わるんですよ。
 私も世界一になった。県で一番になった時、八百屋のおじさんがいきなりね、「信ちゃん、がんばったね」って、バナナちぎって「これ食べなさい」とくれるんですね。当時、バナナは貴重品だったんですよね。「なぜくれるんですか、おじさん」と言うと、「おまえ、新聞に載っていたじゃないか」新聞に大文字で載ったんです。「おじさん、何言ってるんですか、しょっちゅう載ってるよ」とか言ってね。「しょっちゅう載ってるよって、初めて見たぞ」あの小さな文字は誰も気がつかないんですよ。気がつくのは本人だけなんです。あれに赤鉛筆で印つけて友達に「載った、載った」と見せてまわるんです。大文字になると開いてパッと気がつくんですね。これにね、日本新記録とつくと写真入りになるんですよ。写真入りになるとねファンレターが来るんです。すごいですよ。私なんか、3か月くらいで段ボール箱一杯くらいになる。封切って中開けると、たいがい写真が入っている。
 副産物なんて言うものもあるんですね。餞別なんていっぱいくれるんですよ。「我が郷土の誇り万歳」なんてね。私の時代は特にそういう時代でした。今から30年も前のことですよ。大卒の初任給が1万円のころ、700万円もあったんです。税金もかかりませんからね。夜数えるのに時間がかかりました。
 不思議な世界です。日本一になって山の頂上に登った。それが世界一なんて言ったら大変だった。「私、吉永小百合のファンです」というとね、会わせてくれるんですよ。今で言えば誰でしょうね。タレントや女優も世界新記録を出した選手と写真を撮るのはメリットがあるんでしょう。とにかく副産物があるんですよ。回りもガラッと変わってきたりして・・・。
不思議なもので、上に行けば行くほど目立つ。良いことも悪いことも注目を浴びる。私も水泳留学したんですよね、中学校の頃。水泳だけ頑張っていたんですよ。たまたま水泳で全国大会優勝したところに水泳留学していましたからね。朝五時半に起きてね、思いっきり泳ぐんです。そうすると「しっかり食べろ。思いっきり食べろ」と言うことで、一日6000カロリー摂っていたんですね。朝だけで、卵5個と、時には10個ぐらい食べたこともありましたね。チーズ一箱とか。6000カロリーというのは食べるの大変ですよ。それでもウエスト62センチメートル、胸囲103センチメートル。懸垂70回とかね。片手で懸垂ができるんですよ。体育館にロープがぶら下がっていますよね。あれにタタタタッと上って天井の鉄骨の上まで上って懸垂するんです。スリルがあっておもしろいんです。「やめてくれ、もし落ちたらどうするんだ」と監督に言われました。落ちるという感覚がなかったですから。だいたい60キログラムの砂袋を背負ってロープで上っていくことができるのです。そのくらい握力が強かったんですけど。そういうことをするには朝晩頑張るんですよ。朝思いっきり食べるんですね。思いっきり食べて、思いっきり練習して。そうするとね、監督が「夕方の練習まで十分休養とっとけよ」って言うんですよ。それで私は、学校に行くと授業中は毎日寝ていたのです。これを3年間やったらどうなると思います。完全なアホができあがるんです。ねえ、それに気がつかなかったんですよ、私も。
 水泳留学してすぐに校長先生に呼び出されました。
「君は授業中ずっと寝てるじゃないか」「はい、監督が十分休息を取るようにと言われましたから」。堂々と寝てましたね。校長先生が「おまえね、何のために、水泳やっているんだ」「オリンピックに行くんですよ」『目指せ、オリンピック』と書いて壁にはってたんですよ。たまたまね、監督がね、「目標を書いてこい」と言うので、小さな紙に『目指せ中学新記録』とかね。すると監督が「こんな小さなもの書くな」「じゃ、何を書けばいいんですか」「「これやる」と言ってステージに掲げてあるのと同じくらいの大きさの国旗をくれたんですよ。これに、『必勝』ときれいな字で先生が書いてくれたんです。「中学新記録」では後々使えない、「高校新記録」でもだめだから、『世界新記録』と書いたんですよ。これを、朝起きるとみるんだよね、目の中に飛び込んでくる、だいたいこれ貼ってたものですから、取材に来た人が「あいつは右翼ですか」とよく言われる。日の丸貼っているから右翼とは限らないんですけれども。でも、インパクトはありますね。だから、「オリンピック行くんですよ」と、聞かれる度にすぐ答える。「おまえ、オリンピック行ったら目立つぞ。あれがオリンピックに行った田口だ。しかしな、その後に、何か付くぞ。あいつはオリンピックに行ったけれどアホだ。あいつは水泳は速いけれどアホだ。そう言われておまえうれしいか」と校長先生が聞くんです。そういうふうに言われたら嫌みにきこえるんですね。「何せいって言うんですか」。「おまえね、うちの学校でも困るんだ。勉強してくれ」そうして、オリンピックに行った大先輩の事例というものをだしてこられたんです。
 ものすごく有名になっといて後が悲劇なんです。よく聞いたら、大学には行ったけれども後が卒業できなかったとかあるのです。テレビに出てきて「○○大学OBです」といいますが「卒業生です」とは言わないですね。OBというのは卒業しているとは限らないんです。卒業していない人がいっぱいいるんです。鹿屋体育大学でも国立大学ですから特に大変です。2割5分くらいの人が留年していました。今は2割弱ですが。でも困るでしょう。体育大学だからと言ってスポーツやっていればいいと思っている人がいるでしょうが、とんでもないです。実技は2割くらいしかないのです。8割は理論です。体育大学というのはいろいろなことを教えるのです。バイオメカニック的なことも教えれば、医学的なことも教える、心理学的なことも教える。スポーツ経営学なんていう学問は経営的なことも教えるんですね。人間をどうやって動かすかという学問ですね。つぶしの利く学部なのです。職種はすごいです。就職はありとあらゆる所にいけるんです。技術系にもいけるんです。それは何故かというと、コンピューター機器も使いこなせるようにするし、研究機器も使えるようにするし、電子顕微鏡も使えるようにするんです。医学系の下請けにもいけるのです。私の教え子にもメディカルドクター(MD)というのを取る人もいます。体育大学を出て鹿児島大学の博士課程に行くとか、名古屋大学の博士課程に行って医学博士になる。医者というわけではないのだけれども、そのような道もある。かと思えば、人間を動かす学問ですから経営学的なことですね、会社の営業とか管理責任者とかですね、ありとあらゆる所に行っていますね。
 そういう意味でね、スポーツというのは目的ではないのだ、手段なんだということを中学生の時に教えてもらったのです。「間違うな」と。「どうすりゃいいんですか」と聞いたら、「お前の席を替えといてやる」と言われました。次の日、学校に行ったら私の席が教壇にぴったりくっついているんですよ。びっくりしたですね。「お前、ここだ」と。教壇の前にドーンと座らせられたものですから寝ることができないんですね。寝ようものならすぐ起こす、すぐ鞭が来る。先生に話しかけられるんですね。「はい、田口君そうだろ」と。すると私も「はい、ごもっともです」頭に入っていく率が違いますね。おかげで落ちこぼれなくてここまで来ているんですけれど。それでも何かこうきつかったですね。そうですよ。上に行けば行くほど目立つ。目立てば目立つほどバランスを取っていただきたい。皆さんもね、一つのことに十分集中することは重要なことなんですけれど、何か不安な要素があったら、たとえば体力がないとか、ちょっと病気持ちだとか。いろいろありますよね。わたしにはこのような欠点があるということになると気になりますよね。特にそのような粗をみせちゃうと気になる。そういう粗があると本当の集中というのはできないんですね。不安が無いから思い切って集中できる。だから、バランスよく宿題もやってしまってからスポーツなどするとね、気持ちがスッとするでしょ。宿題が残っている。予習もしとかなきゃと思うと集中しないんです。さっさとやってしまえと。それはね、よく考えてみたらね、計画をきちんと立てていないからなんですよね。私は目標だけ書いていただけだったんですね。中学校の時に「良くないよ。計画も立てなさい。建物を建てるときに、犬小屋だって設計図は作るんですよ」と言われたんですね。設計図を作らないで(人生設計ですね)何かを建てようとしたら建たないでしょ。「この木、どうしますか」「その辺に」とか、「これは」「その辺で良いんじゃないの」とかね。何とはなしに建てた家を皆さんは買いますか。そんな家には住まないでしょ。だからやっぱり無駄が多くなるのですよ。失敗が多くなるのです。その点しっかりした計画ですね。私は高校生の時に25年のカレンダーをもらいました。人生考えましたよ。どうか皆さんも、長い計画をもっていただきたい。そうでしょ、25年先には自分はどうなっているだろうと見つめるとね、今何をしなきゃいけないかと言うことはね、何とはなしにわかる。今何をしなきゃならないかということを考えるならば、優先順位はこっちだねというのはでてくるんです。私に言わせるとね、スポーツをやっている人はあまりにも計画を持たないんです。だいたい監督まかせなんです。私はたまたまそういう指導者に巡り会って4年のスケジュール表で今日1日やることというのは書いてあるんです。朝起きたときには今日一日やることは決まってるんです。天井にぴたっと貼ってあるんです。
 それとね、皆さんにテクニックとして使って欲しいのはね、あの目覚まし時計の「ジャリーン」という音はやめた方がよいですね。朝というのは非常に重要なんですね。私は気分よく起きたいんで音楽をかけていたんです。私の場合は軍艦マーチでしたが、まあ、これはあまりお勧めできませんが、気分よく起きられましたよ。皆さんなら、携帯電話の着メロでも良いでしょう。それとね、ストレスをあまりためないで起きた方がいいです。朝は、これから寒くなってくると床から出にくいでしょ。電気毛布買ってもらってね、上下にね。それで暖めて寝るんじゃないんです。タイマーを設定しておくのです。朝5時55分にはプールに飛び込まなければならないので、朝それにあわせて5時過ぎには起きるんです。寮とプールがくっついていましたから、起きたらすぐプールに飛び込めばいいというくらい近かったんです。でも朝起きるとき寒いでしょ。それをね、電気毛布で熱くするんです。「熱いっ」といってプールに飛び込むんです。それをね、「朝は寒い、いやだな」というとね、やる気を削るんです。そうでしょ、皆さんもね、学校に行こうと思ったら嫌な先生の顔が頭に浮かぶじゃないですか。逆にこの人に会いたいなと言うような素晴らしい女性の写真を貼っておくのですよ。「あっ、行こう」と思いますね。これは工夫なんですよ。これはね、先輩がこうした方がいいよと教えてくれたんです。そして、毎日積み上げたものを、こうしてグラフに書いていました。「今日はこれだけ泳いだ」「これだけ泳いだ」「これだけ泳いだ」、すると棒グラフがすごい柱になっちゃう。そこまで来るともうやめられない。もったいないと思います。何も貼ってないとします。痕跡がないと「もういいや。もうやめよう」となってしまいます。スポーツというのはやめたら3日で元に戻るんです。ひと月というと、ほとんどゼロです。下りエスカレーターを上に上っていくようなものです。私の場合はね、流れる川を上るがごとくと言うんです。止まると元に戻るんです。筋肉って鍛えると強くなるけれどやめるとなくなるんです。山の頂上に上るまで継続し続けなけれなならない。のんびりやったらだめです。汗水垂らして何かやったら筋肉がつくと思っている人がいるんですが、筋肉がつくんだったら宅急便運んでいる人はみんな筋肉マンになっているはずです。お百姓さんなんかすごいスポーツマンになっちゃうよ。でもならないですよ。あれは強度が低いんですよ。限界への挑戦をするから限界が一つずつ上がっていくんです。でも間違えないようにね、限界というのは超えると壊れるんです。壊れないようにケアしてくれる人を横に置いてやらなければならないものです。皆さんね、自分一人で限界に挑戦なんてできると思っている人、いるんじゃないかと思うんですけど。皆さん、自分で鼻つまんで息止めて気を失うまでやってごらん。できないでしょ。もし仮にやっても危ないよね。だから、息を限界まで止めるようなことをやろうとしたら側にケアしてくれる人を置いておかなければいけない。それが、素晴らしいコーチなんです。限界のきわどいところで止めてくれなければいけないんです。そして限界まで押してくれなければいけない。自分でやらない。そのときは手伝ってもらうんです。指導者が必要です。「監督、鼻と口を押さえておいて下さい」と言えば良いんですよ。そうすると、きわどいところで放してくれるんですよ。そうすると限界が少しずつ、少しずつ上がっていきますね。
 そういう中でですね、皆さんに是非知っておいていただきたいことがあるんです。私も目標を立て、計画を立て、朝晩限界までの挑戦をして、これで金メダルが取れるんだと思ったら泳法違反で失格になったんです。関節炎になったり、いろんな障害にぶつかるんですよ。その時、わたしは気がついたんですね。「運がないんだ」と。運がない選手っていうのは惨めですよ。オリンピックに選ばれて「よかった」と思っていたら、祝賀会でちょっと飲み過ぎて、ひっくり返ってちょっと寝てたら、風邪ひいて肺炎になっちゃって集合に間に合わない。もう、来なくていいと行って取り消されたり。モントリオールオリンピックでの話ですが、選手に選ばれて「よし、頑張るぞ」と思っていって、監督が「よし、まだ時間があるぞ、ちょっと休んどけ」と言われ、「ハーイ」と素直な女の子ですよ。寝てたんですよ。女子が先、男子が後に競技はあるんですが、女子はもう行ってるものだと思っていたんですけど、私がウォーミングアップをして行こうとしたら女子が寝ているんですよね。招集席には行っていない。「おまえ、何やってんの」といったら、「はい、監督がまだ時間があるから休めとおっしゃったからここで休んでるんです」と言うんです。「お前何考えてるんだ。もう競技をやってるんじゃないか」と言ったら、「えっ」と言っていったんですよ。「おい、どうだった」「ええ、もう終わっていました」オリンピック選手に選ばれてですよ。親は大変ですよ。町内会で盛大に送り出してね、餞別ももらって。「どうだったか」と聞かれて、「寝ているうちに終わりました」これでは帰ってこれないですよ。こういうことはいっぱいありますよ。オリンピック優勝者と言われる人がね、ウォーミングアップ中にけがをして救急車で運ばれているんですよ。そこが問題なんですよ。だから、運がないといくら努力していても素晴らしい成功者にはなれない。
 そこでね、運はどうやって掴むのかということに気がついたんです。ちゃんと覚えて帰っていってくださいね。記憶というのはどんどん消えていくのです。この後素早くメモしといた方がいいですよ。一週間たつとほとんどゼロになる。そういえばオリンピックで頑張った人が来たらしいよとかね。「田口」なんて言うのは絶対忘れるからね。秘訣はただひとつ、『神様を味方につける』神社仏閣なんでも拝み倒した。有森選手だってお守り袋を下げていっているでしょ。ねえ、高橋尚子選手は下げてなかったみたいですけど。(笑い)さげているのかな。よく知りませんが。だいたいみんなもそうでしょ。腹痛起こしたときに「誰かこの痛みを止めてくれ。神様」とかね。日本の宗教というのはだいたい都合のいい時だけ頼むんですね。その点、アラビックは1日四回とか五回とか拝むんですよね。何でもね、意識した方がいいですね。神様を味方に付けるには神社、仏閣を拝み倒しておけばいいなと思っていたら、うちの監督が、國學院を出ているんですが、一言ですよ。「神様も忙しいんだ、おまえ。そんな、おまえの都合のいいことばかり聞いておられるか。おまえ、神様の立場になって考えてみなさい」と言われましたね。そこで初めて、神様の立場に立って考えることになったんですよ。ここがいい所なんですよ。わたしは、考えて行動しましたよ。神様の立場に立ってね。人の足引っ張るようなやつには運はくれないだろうな。人をねたむようなやつはね、まずそういうことはないだろうなってね。だってそりゃそうでしょ。よく考えてみなさい。人の金を盗んでですよ、競馬に行ったり、競艇に行ったりして、「さあ当てるぞ」と言ったって当たるわけないじゃないですか。人の金盗んだような悪い人間がもっといいラッキーなチャンスがくるわけがないじゃないですか。来たら大変なことになりますよ。・・・と言うことを気がつかない人が世の中には一杯いるんだ。そうでしょ。悲劇は一杯起きているんです。私は気がついたんです。今日、皆さんも気がつきましたね。やることは一つなんですよ。わたしの日常行動が変わってきましたね。困っている人を捜しまくりましたね。
 当時はボランティアなんて言葉はなかったですね。奉仕活動ですよ。道歩いていてゴミが落ちていたら、サッと拾うね。神様見ている。これでいいことあるな。プラス1ね。「一日一善」なんて壁に貼っていたんですが、監督が来て、「おまえ、一日一善やるのか」と言うんです。ああ、一善じゃ間に合わないなと思って、一日十善にしたね。十善ってなかなかできないですよ。探しまくらないと。便所掃除なんかもう率先してやったね。あれは『運がつく』っていうから喜んでやったんです。本当に人間って追いこまれて藁をもつかむような状況になったら誰でもやるんです。そりゃそうじゃないですか。四年間ですよ、朝から晩まで思いっきり練習して、たった一回のチャンスに賭けるんですよ。高校野球だってそうですよ。一回負けたら終わりなんですよ。パーフェクトに勝ったチームだけが頂点に立つんです。リターンマッチなんてないんです。そう一回ぽっきりなんですよ。四年間の。それも、水泳をいくら泳いだって、本とか勉強は後に残るんですけれども、スポーツというのは残らないんです。私が「速く泳げてたんです」と言ったところで、いま「泳げ」と言われても泳げないですよ。今「懸垂しなさい」と言われても五回が精一杯ですよね。そんなもんですよね。信じられないくらい体力って落ちるんです。
その点、知識って便利ですよね、後に残るでしょう。だから、勉強しておいた方がいいなあと思いましたね。ここまで来たら元を取らなきゃと思いまして、一生懸命勉強をやりました。ですから、日常行動ががらっと変わるんですよ。人の気持ちになって考える行動パターンになりましたね。人の足を引っ張るようなやつは私の足も引っ張るだろうなあと思いました。絶対に人の幸せを喜びました。人がすばらしい成績を出したりしたら心の底から祝福するし、私の後輩とかライバルに心の底から「おまえね、ここのところをもうちょっとこう練習したらもっと強くなるよ」と言うんです。するとね、倍になってアイディアが返ってきたり、倍してほめてくれますし、倍して応援してくれます。だから、みんなに対して大いに素晴らしいことをしていくと素晴らしいエネルギーを返してくれるんです。皆さんやってみてください。ゴミ拾いでも何でもいいんですよ。ゴミ拾いを思いっきりやってみてください。必ず、お金を拾うから(笑い)。もう時間になりなしたが、いいことありますよ。私も車で移動することが多いんですが、空港に行く途中に猫や犬が轢かれているのを片づけたり、狸なんてもう8匹くらい片づけました。ですからね、今日なんかこの学校に来るのに電車に乗ろうと思って来たら、もう電車が待っているんですね。乗ったらすぐに動き出すのです。ですから今日は速く到着しすぎました。車に乗っていても信号機が黄色から赤にならないんですね、全部青になるんです。こういう人生を皆さんも進んでいただきたいと思います。やり方は非常に簡単なんです。自分をよく見ていただきたい。そして、人の意見をよく聞いていただきたい。人の立場に立って自分をよく見つめていただきたい。人の幸せを心から祝福できるような人になっていただきたい。人が百点取ったときに「あいつカンニングしているんじゃないか」とか、こういう気持ちがあるんです。人間ってね、こういう気持ち、ねたみを持っているんです。それを如何に、前向きにいい方向に運のある人生に向けるかによって人生は大きく変わりますよ。皆さんもそういう人生を送っていただきたいと思います。
 鹿児島の鹿屋に国立で唯一の体育単科大学があります。なかなか合格しにくいとおっしゃる方もいますが、国立の中ではセンター試験の点数では一番入りやすい大学です。 学生一人当たりの教育費にだいたい200万円くらいかけるんです。プールの年間の維持費だけで6000万円もかかっているんです。私の所にある研究機器だけでも3億円相当分に当たるんです。皆さん、大いにですね、体育大学に来てください。就職がいろんな方面に可能なんです。体育大学ほど就職に関してつぶしの利く大学、学部はないのではないかと思います。世の中で求められている職種というのは製造する人と、売る人、管理する人の三つしかないんですよ。販売に向くんですよ。スポーツというのは対人関係の職種に向くんですね。そりゃそうでしょ。先輩後輩がいたり、人と戦ったりする。それにスポーツというのは勝った、負けた、恥かいたというのが常によく見えるでしょう。国語のテストや、英語のテストをしても点数をそこらあたりに張り出さないでしょう。スポーツというのは張り出しているのと同じですね。だから、恥をかくことに慣れるんです。そう、こういうところで平気で話せるし。私なんか、山手線の電車の中で「知床旅情」を歌いましたからね。観客が一杯いました。先輩から歌えと言われたのです。度胸を付けるんですね。そういった先輩後輩の関係で、親や教師が教育できないような面も学びました。厳しい面もあるのですが迫力も加わるし、バイタリティも養えるし、粘り強さもつく。そして、体力も。そんな素晴らしい体育大学を皆さんにも大いに目指していただきたいという宣伝も兼ねまして終わりにしたいと思います。どうもご静聴ありがとうございました。(拍手)




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